ラーンの汗が額を伝い、べとべとと頬を伝った。灼熱の太陽の下、遺跡の入り口へと続く砂利道は容赦なく熱を帯びていた。イシェは薄手の布で口と鼻を押さえ、咳き込む。「今日はやけに暑いな」とラーンが呟くと、イシェは小さく頷く。
「テルヘルさん、まだ大丈夫ですか?」
テルヘルは背の高い体躯を日陰に預け、目を閉じていた。彼女の顔色はあまり良くなく、額には細い汗が滲んでいた。「少し休めばいい」と彼女は低い声で答えた。しかし、その声にもどこか力強さが欠けていたように感じた。
遺跡の入り口に着くと、ラーンはいつものように興奮気味に言った。「よし、今回は必ず何か見つかるぞ!大穴だ!」イシェは彼の熱意に苦笑する。いつも通りのパターンだ。だが、今回はどこか不安な予感がした。テルヘルの様子も不自然だし、遺跡からの冷たい風が肌を刺すように冷たかったからだ。
遺跡内部は薄暗く、湿った空気で充満していた。足元にはべとべとと粘り気のある苔が生えており、ラーンが足を踏み入れるたびに不快な音が響いた。イシェは背筋がゾッとするような感覚に襲われた。いつもとは違う、何か邪悪なものを感じるような気がしたのだ。
彼らは遺跡の奥深くへと進んでいく。壁には古びた壁画が描かれており、奇妙な文字が刻まれていた。テルヘルは壁画を指さし、「これは…ヴォルダンに関するものだ」と呟いた。彼女の瞳に、復讐心を燃やす炎が宿っていた。
すると、突然、床から黒い煙が噴き出した。煙が立ち込める中から、不気味な声が聞こえてきた。「邪魔者は許さん…」ラーンの剣は震えた。イシェは恐怖で体が硬直した。その時、テルヘルは冷静さを保ち、「逃げろ!」と叫んだ。
だが、もう遅かった。黒煙の中から巨大な影が姿を現し、三人は襲いかかられた…。