「よし、今回はあの崩れかけた塔だ!」ラーンの声はいつも以上に高揚していた。イシェは眉間にしわを寄せる。「またそんな危険な場所に?あの塔は崩落寸前だって言ったじゃないか。」
「大丈夫だよ、イシェ。俺が先頭を切って行くから。ほら、テルヘルさんも一緒だもんね」ラーンはニヤリと笑った。テルヘルは鋭い目で二人の様子を伺っていた。「いいだろう。だが、何かあったらすぐに撤退するぞ。そして、約束通り、遺物を見つけた場合は半分を私に渡すのだ」
イシェはため息をついた。「いつも通りだな…」
崩れかけた塔の入り口に差し掛かった時、ラーンは興奮気味に叫んだ。「よし!行くぞ!」そして、見覚えのない石畳の上を走り出した。イシェは慌ててラーンの後を追う。テルヘルは冷静に周囲を観察しながら続いた。
塔内部は薄暗く、埃が舞っていた。崩れ落ちた壁からは、かつての栄華を偲ばせる彫刻が顔を出していた。ラーンは興奮気味に壁を叩いて、「ほら見て!こんな立派な彫刻があるぞ!」と叫んだ。イシェは「落ち着いてくれ…」と呟きながら、足元を注意深く確認した。
すると、突然、床の一部が崩れ落ちた。ラーンはバランスを崩しよろめいたが、何とか footing を確保した。しかし、その衝撃で壁から埃が巻き上がり、三人は一瞬のうちに視界を失った。
「ぐっ…」ラーンの声が聞こえた。「イシェ、大丈夫か?」
「私はいいけど…ラーン、どこにいるんだ?」イシェは咳き込みながら叫んだ。
その時、何かが彼らの頭上に落ちてきた。イシェは咄嗟に身をかわし、床に転げた。振り返ると、ラーンが崩れ落ちた壁の残骸の下敷きになっていた。
「ラーン!」イシェは叫びながら駆け寄った。「大丈夫か?」
ラーンの顔は血で覆われていた。彼は苦しそうに息を吸い込みながら、「イシェ…早く…逃げて…」と呟いた。
テルヘルが駆け寄ると、ラーンの腕を掴んで引き上げた。「まだ生きている!すぐに外へ出ろ!」
イシェは涙を抑えながら、ラーンの腕を抱きしめ、ゆっくりと立ち上がった。三人は塔から脱出した後、近くの泉でラーンの傷を洗い流した。彼は意識が朦朧とする中、イシェに「ごめん…俺のせいで…」と呟いた。
イシェはラーンの手を取り、「いいんだよ…大丈夫だ」と優しく言った。しかし、彼の心には深い悲しみと怒りが渦巻いていた。
ラーンが傷つき、命を落とすかもしれない状況に、イシェは自分の無力さを痛感した。そして、この危険な遺跡探検から抜け出したいという気持ちが強くなった。
一方、テルヘルは冷静に状況を分析していた。ヴォルダンへの復讐のためには、ラーンのような人物が必要だった。しかし、彼を失うことは大きな損失である。
彼女は深く考え込むように目を閉じ、そしてゆっくりと口を開いた。「次の遺跡は慎重に探そう…」