ラーンが「大穴」を見つけた時の興奮を、イシェが冷めた目で見ている。いつも通りの光景だ。ビレーの酒場で、ラーンの豪語が始まった。「今度は間違いない！あの遺跡には必ず何かあるって！」
イシェはため息をつき、杯を傾けた。「またか、ラーン。いつになったらその大穴を見つけるんだ？」
「見つけられるはずだ！だって、俺には感じるんだ、何かがそこに眠っているって！」 ラーンの目は輝いていた。イシェはその瞳に、少年の頃の夢と希望を見たような気がした。
そんな彼を、テルヘルは鋭い眼光で見つめていた。「大穴」の話は彼女にとって興味深い情報源だった。ヴォルダンへの復讐には、どんな情報も武器になるかもしれない。
ビレーの外れにある小さな遺跡。ラーンが「大穴」を発見すると言い出したのは、ここだった。イシェは、いつも通り彼の後ろをついていく。テルヘルは少し遅れて、二人をじっと見つめていた。
遺跡の入り口には、崩れかけた石碑が立っていた。ラーンの興奮を冷ますように、そこに刻まれた文字が風化して読み取れなくなっていた。「どうだ、イシェ！大穴の入り口じゃないか！」 ラーンは石碑に手を当て、興奮を抑えきれない様子だった。イシェは、彼の背中に手を置いた。「落ち着いて、ラーン。まずは確認しよう。」
遺跡の中は薄暗く、埃っぽかった。ラーンの足取りは軽やかだが、イシェの足音は慎重だ。テルヘルは二人を少し遅れて追いかけるように、一歩ずつ進んでいった。
遺跡の奥深くまで進むにつれ、空気が重くなり始めた。イシェは背筋がぞっとするような感覚に襲われた。何かがおかしい。ラーンは全く気づいていないようだった。
「ほら、見てくれ！すごいな！」 ラーンの声が響いた。彼は壁に飾られた絵画を指さしていた。そこには、古代文明の生き生きとした様子を描かれた壮大なフレスコ画が広がっていた。イシェも息をのんだ。しかし、その美しさの裏に潜む不気味さは、彼女の心を締め付けているようだった。
テルヘルは、壁画の奥にある何かを感じ取っていた。それは、単なる絵画ではない、何かを封印しているような気がした。彼女は、ラーンとイシェを注意深く観察しながら、静かに一歩ずつ前に進んだ。
その時、突然、壁から不気味な音が響き渡った。ラーンとイシェは驚いて振り返ると、壁に描かれた生き物が動き始めたのだ。それはまるで、絵画の中に封印されていた何かが目を覚ましたように、ゆっくりと、そして確実に動き出すのだった。