ラーンが、錆び付いた剣を片手に遺跡の入り口に立っていると、イシェがため息をついた。「また、大穴か？ ラーン、現実を見ろよ。そんなもの、存在するわけがないだろう」
「いや、絶対にあるんだ！ あれだけの大きさの遺跡があったら、必ず何かがあるはずだ！」
ラーンの瞳は輝いていた。イシェは彼のその熱意を、どこか憎たらしくも、愛おしそうに眺めた。二人は幼い頃から一緒に遺跡を探し回ってきた。ラーンの無謀な行動をいつも心配しながらも、彼には何か惹かれるものがあった。
テルヘルが近づいてきて、「準備はいいか？」と冷たく言った。彼女は黒曜石の輝きを放つ鋭い刃を持つ短剣を腰に携えていた。その姿はまるで、影から現れた夜空のような美しさで、ラーンの視線を一瞬奪った。
「よし、行こう！」
ラーンが先頭に立ち、遺跡へと踏み入れた。石畳の道は、まるで長い年月をかけて風と雨に削られたように、荒れ果てていた。壁には、ひび割れた絵画がぼんやりと残っており、かつて栄華を極めた文明を物語っていた。
イシェは慎重に足取りを進める。ラーンの無茶な行動にはいつもハラハラする。一方、テルヘルは常に周囲を警戒し、鋭い目で遺跡を観察していた。彼女の動きはまるで、ひらひらと舞う蝶のようでありながら、その中に秘められた強靭さは、誰にも止められないものを感じさせた。
深く進むにつれて、空気が重くなり、薄暗い光だけが差し込んでくるようになった。ラーンの足音が、石畳にこだまして響き渡る。すると、突然、イシェが立ち止まった。「ここだ…」と呟いた。
彼女の視線は、壁の一角にあった小さな扉に向けられていた。扉の上には、複雑な模様が刻まれており、まるで生きているかのように光を放っていた。ラーンは興奮を抑えきれずに、扉に手を伸ばそうとした。その時、テルヘルが彼を制止した。「待て！あれは…」。彼女は恐る恐る扉に触れ、その表面を撫でた。
「これは…」
彼女の表情が曇り始めた。扉の模様から、何かを感じ取ったようだ。ラーンとイシェは、彼女の様子に不安を感じながら、静かに待った。テルヘルはしばらくの間、沈黙を守り、そしてゆっくりと口を開いた。「この遺跡…ヴォルダンと関係がある…」
彼女の言葉は、まるで冷たい風が吹き抜けるように、三人の心を震わせた。