はらはら

ラーンの粗雑な足音が埃を巻き上げ、ビレーの遺跡へと続く道を駆け抜けていく。イシェはため息をつきながら後を続けた。いつもならラーンが先に遺跡の様子を確認して合図をするのだが、今回は興奮しすぎてしまったらしい。

「待てよ、ラーン！」

イシェの声は風でかき消されてしまう。ラーンの後ろ姿は、まるで巨大な岩壁に描かれた影絵のように、薄暗がりの中に溶け込んでいく。イシェが急いで追いかけると、そこは広々とした遺跡の入り口だった。天井から差し込む光が、埃を舞わせる。

「ここだ！大穴に違いない！」

ラーンは目を輝かせながら、石畳の上を進んでいく。イシェは眉間に皺を寄せた。この遺跡は以前から調査していた場所で、すでに空っぽだと分かっていたはずだ。だが、ラーンの熱意に巻き込まれるように、自分も一歩踏み出した。

「待て、ラーン！ここには何もないぞ！」

イシェの声が響き渡るが、ラーンは耳を貸さなかった。彼は石畳の隙間を指差しながら、興奮気味に言った。

「ほら、見てみろ！この模様、まるで地図みたいじゃないか！」

確かに、石畳の隙間には奇妙な模様が刻まれていた。イシェは一瞬、心を躍らせそうになったが、すぐに冷静さを取り戻した。

「そんなもの、ただの模様だ。ラーン、落ち着きなさい。」

しかし、ラーンの熱意は冷めようとしなかった。彼は石畳を叩きながら、地図の謎を解き明かそうと必死で考えている。イシェは彼の様子を見て、胸が痛んだ。ラーンの夢を打ち砕くような言葉を言うのは避けたい。だが、現実を突きつけるのも責務だ。

その時、背後から冷ややかな声が響いた。

「面白い発見ですね。」

振り返ると、テルヘルが立っていた。彼女は鋭い目つきで石畳の模様を眺めていた。ラーンは一瞬驚いて言葉を失ったが、すぐに興奮した様子を見せた。

「テルヘルさん！ちょうどいいタイミングだ！この模様、地図みたいじゃないか？もしかしたら大穴への手がかりかも！」

テルヘルは冷静に頷きながら言った。

「興味深いですね。では、一緒にこの謎を解いてみませんか？」

ラーンの目は輝き、イシェは深く息を吸った。三人は共に石畳の模様を眺め、その意味を探ろうとした。

その時、地面がわずかに震えた。そして、石畳の一部分から、不気味な音が聞こえてきた。

イシェは一瞬、背筋が寒くなった。何かが起きる予感がしたのだ。はらはらと緊張が高まる中、三人はゆっくりと石畳へと近づいていった。