ラーンの重い足取りが、ビレーの朝の霧の中に消えていく。イシェは彼の後ろ姿を見送った後、テルヘルの冷たい視線を感じた。
「また、あの無茶な計画?」
テルヘルは眉間に皺を寄せ、薄ら笑いを浮かべた。「彼には、何も見えていないようだ」
イシェは小さくため息をついた。「ラーンは、いつもそうだった。危険を顧みず、自分の目で確かめないと気が済まない。まるで、ぬくもりに包まれた場所を求めているようだけど…」
「ぬくもり?」テルヘルは嘲笑するようだった。「そんな甘いもの、この世界に存在しない。特に、ヴォルダンとの戦いが始まったらなおさらだ」
イシェはテルヘルの言葉に反論しようとしたが、その場を去るラーンの姿を見て言葉を飲み込んだ。彼は、いつも通り、太陽の光に向かって歩き出していた。その背中には、どこか寂しげな影が伸びていた。
「あの男…」
イシェは呟くように言った。「いつか、彼を待っているものを見つける日が来るのだろうか」
テルヘルは何も言わず、ただ冷たい視線でラーンの後を追った。彼女の心には、復讐の炎だけが燃えていた。