ビレーの酒場「荒くれ者」に、ラーンの豪快な笑い声が響き渡っていた。「よし、今日は大穴だ!あの遺跡に眠る宝は、俺たちの手の中だ!」
イシェはため息をつきながら、彼の背中に手を回した。「ラーン、またそんなこと言わないで。あの遺跡は危険だって何度も言ったでしょ」
「大丈夫、大丈夫!イシェが心配してくれるなんて嬉しいな。でも、今回は違うんだ。俺に何かが降りてきたんだ!」ラーンの瞳には、いつもの軽い感じではなく、確信に満ちた光が宿っていた。
イシェは彼の様子を訝しげに見つめた。「何かあったのか?」
そのとき、背後から冷たく響く声がした。「準備はいいか?今日は大物が入手できるかもしれない」テルヘルが鋭い視線で二人を見下ろしていた。
ラーンは興奮気味に頷き、イシェも仕方なくうなずいた。彼らはテルヘルの指示に従って、荒れ果てた遺跡へと向かった。
遺跡の入り口には、かつて栄華を極めた文明の名残がかすかに残っていたが、今は崩れかけた壁や朽ちた石碑だけが、なごりを物語っていた。
「ここには、ヴォルダンに奪われたものがある」テルヘルは静かに言った。その声には、復讐心を燃やす炎が宿っていた。
遺跡内部は暗く湿り気があり、不気味な影が壁を這うように動いていた。ラーンは剣を構え、イシェは慎重に足元を確認しながら進んでいった。テルヘルは最前列を歩き、鋭い目で周囲を探していた。
彼らは長い廊下の奥にたどり着き、そこには巨大な石の扉があった。扉には複雑な模様が刻まれており、古代の呪文のようなものが記されていた。
「これは…!」イシェは目を丸くした。「この文字は…」
ラーンの顔色が変わった。「あの伝説の宝物の場所か…?」
テルヘルは静かに頷きながら、扉に手を伸ばした。「準備したのか?」
ラーンはうなずき、イシェも深く息を吸った。三人で力を合わせて扉を開くと、そこには眩い光が放たれていた。
その光の中心には、巨大な宝石が輝いていた。それは、かつてヴォルダンに奪われたという伝説の宝「星の涙」だった。
「ついに…」テルヘルは小さく呟きながら、宝石を手に取った。
しかし、その時、背後から不気味な音が響き渡った。石の扉が激しく揺れ、崩れ始めていた。
「これは…!」ラーンの顔色が青ざめた。「罠だ!」
三人は慌てて逃げ出したが、崩れ落ちる天井や壁から襲いかかる岩石を避けながら進むのは困難だった。
イシェは足を滑らせ、バランスを崩しそうになった。その時、ラーンが駆け寄り、彼女を引っ張り上げた。
「大丈夫か?」ラーンの顔には心配の色が浮かんでいた。
イシェはうなずきながら、彼の腕から離れた。そして、振り返ると、テルヘルが宝石を手に持ち、遺跡の奥深くへと逃げていく姿が見えた。
「テルヘル!」ラーンが叫んだが、彼女はもう戻らなかった。
崩壊する遺跡の中で、ラーンとイシェは互いに見つめ合った。二人の間に流れる空気には、なごりのように苦い感情があった。