ラーンの大きな手はイシェの腰を掴んで引っ張った。「待て、イシェ!」
「何してるんだい、ラーン?」イシェは眉間にしわを寄せながら言った。だが、その目は少しだけ輝いていた。ラーンの背後から聞こえるテルヘルの低い声が、彼らの緊張をさらに高めた。「早くしろ、二人は!あの部屋には何かがある!」
ビレーの遺跡探検隊で、三人はいつもこの調子だった。ラーンの衝動的な行動と、イシェの慎重な判断がぶつかり合い、テルヘルはそのバランスを保つように指示を出す。だが、今回は少し違った。いつもは冷静さを保っているイシェの表情に、かすかなときめきを感じた。
それは遺跡の奥深くにある部屋で発見した、巨大な水晶球からだった。球体は淡い青色に輝き、内部には星が瞬いているように見えた。ラーンの興奮を抑えきれず、手を伸ばそうとする。イシェは彼を制止するが、その声はいつもより少し震えていた。テルヘルは静かに水晶球を観察し、「これは…。」と呟いた。
「何だ、テルヘル?」ラーンは目を輝かせた。「何かすごいものか?」
テルヘルはゆっくりと頷き、「この水晶球は、かつてこの遺跡を築いた文明の知識を全て含んでいる可能性がある」と答えた。イシェは息をのんだ。ラーンの夢である「大穴」、そしてテルヘルの復讐にも繋がるかもしれない。三人の視線が一つになった瞬間、水晶球が急に光り輝き始めた。部屋中に青白い光が広がり、三人は目をぎゅっと閉じた。
そして、静寂の中で、イシェは自分の鼓動を強く感じる。それは単なる興奮ではなく、何かもっと深いものだった。まるで、水晶球の光が彼女の心に直接触れて、眠っていた何かを呼び覚ましたようだった。