ラーンの大声を遮るように、イシェは眉間にシワを寄せて言った。「待て、ラーン。あの石柱には何か記銘があるぞ。確認してから動こう。」
ラーンの足は既に遺跡の奥へと進んでいく。彼は振り返りもせず、「そんなのどうでもいい!早く財宝を見つけるんだ!」と叫んだ。イシェはため息をつきながら石柱に近づき、ぼんやりと浮かび上がる文字を慎重に読み解いた。古代語の複雑な記号が、まるで警告のように彼女の視界を覆う。「これは…危険を意味する記銘だ」
「ラーン!」イシェの声は急いでいた。「あの記銘には『触れる者災い』と記されているぞ!引き返すべきだ。」
しかしラーンの耳には届いていなかった。彼は興奮して遺跡の奥へと進んでいき、巨大な扉の前に立ち止まった。その扉には、まるで生き物のように蠢く模様が刻まれていた。「これは…!」ラーンは目を輝かせながら、扉を押し始めた。
イシェは恐怖で心臓が凍りつくのを覚えた。ラーンの無謀さと、それを止められなかった自分に激しい怒りが込み上げてくる。「待て、ラーン!あの記銘は嘘じゃないぞ!触れるな!」
彼女の叫びは、すでに遅すぎた。扉が開かれた瞬間、遺跡全体を包むような不気味な空気が流れ出した。そして、ラーンの背後から、石柱が崩れ落ちてきた。イシェは絶望的な気持ちで目を閉じた。
「ラーン!」
その時、何かが彼女の腕をつかんだ。「逃げろ!イシェ!」テルヘルが叫びながら彼女を引っ張った。
イシェは振り返ると、ラーンの姿が見えた。彼は石柱の下敷きになっていたが、かすかに息をしているようだった。
「ラーン!」イシェは悲鳴を上げた。
テルヘルは冷静に言った。「まだ生きている。だが、すぐに助けなければ…」
イシェは立ち上がり、ラーンを助けるために走り出した。しかし、彼女の心には、ラーンの無謀さと、それを止められなかった自分の無力感と罪悪感が深く刻まれたままだった。