ラーンの大きな斧が石壁を粉砕した。埃が舞う中、イシェは咳払いしながら言った。「また無駄な力仕事だな。あの奥の部屋から宝が出たという話も、ただの噂だろう」。ラーンは苦笑いを浮かべ、「でもさ、もしかしたら今回は違うんじゃないか?だって、テルヘルが結構いい報酬を払ってるんだろ?」イシェは彼の楽観性にため息をついた。「テルヘルの目的はあくまでヴォルダンへの復讐だ。遺跡の財宝は手段に過ぎないだろう」。
彼らは深い洞窟を進んでいった。壁には古代文字が刻まれており、イシェはそれを解読しようと努めたが、ほとんど意味をなさない呪文のようなものだった。突然、床が崩れ始め、ラーンはイシェを引っ張って急いで後退した。「気をつけろ!」テルヘルが叫んだ。「ここは罠だ!あの石板には重りが仕掛けられてるはずだ」。
イシェは足元を見下ろした。確かに、石畳の隙間から細長い金属製の棒が突き出ているのが見えた。ラーンの斧がその金属棒を叩きつけた瞬間、床全体が激しく揺れ始めた。「やばい!逃げろ!」テルヘルが叫びながら走り出した。イシェはラーンに手を伸ばしたが、彼は足がすくんで動けなかった。
崩れる床の下敷きになりそうになるラーンの目に映ったのは、イシェの絶望的な表情だった。その時、イシェは自分の体に力を込めた。「ラーン!」彼女は彼の腕を掴み、必死に引っ張った。しかし、重すぎる。ラーンの体は崩れ落ちる床に引きずり込まれていく。
イシェは泣き叫んだ。「ラーーン!」テルヘルが彼女の手を引き上げると、すでに遅かった。床は完全に崩れ落ち、ラーンの姿は見えなくなっていた。イシェは絶望感に打ちひしがれながら、崩れた床の隙間から、かすかに見えるラーンの腕を握りしめた。
「大丈夫…大丈夫…」イシェが呟いた。「何とか助けてやる。必ず」。しかし、彼女の目は涙で歪んでいた。