ラーンがいつものように寝坊した。イシェが彼の顔をたたいて起こすと、「もう昼だぞ!テルヘルが待ってるぞ!」と怒鳴った。ラーンの目を開けると、イシェの眉間にしわが寄っているのが見えた。「今日は重要だって言ってたよな。遺跡の調査らしいけど…」ラーンはぼんやりと呟いた。「ああ、あの噂の遺跡か」イシェはため息をついた。「テルヘルはいつもより真剣な顔で話してたわ。何かあるんじゃないかしら…」
ビレーを出ると、テルヘルが馬車で待っていた。彼女はいつもより黒いドレスを着ており、鋭い目つきで彼らをじっと見つめていた。「遅れたな」とテルヘルは冷たく言った。「今日は時間との勝負だ。急げ」テルヘルは馬車の reins を握りしめ、車を走らせた。
遺跡は、ビレーから北へ数時間の場所にあり、険しい山道に沿って位置していた。「ここが?」ラーンは眉間にしわを寄せながら、荒れ果てた遺跡を見回した。苔むした石造りの壁と崩れ落ちた柱が、かつての栄華を物語っていた。「ここには何があるんだ?」イシェがテルヘルに尋ねると、彼女は少しだけ唇を動かした。「情報によると、この遺跡には古代の技術に関する記録が残されているらしい」とテルヘルは言った。
「古代の技術?一体どんなものなんだ?」ラーンの興味をそそる言葉だった。「それが分かれば、ヴォルダンへの復讐に近づく一歩になる」テルヘルは目を輝かせた。彼女の目は、復讐心に燃えていた。遺跡の奥深くへと足を踏み入れた時、ラーンは背筋がぞっと冷えた気がした。まるで誰かが彼らをじっと見つめているような、不気味な予感がしたのだ。
「何か変だな…」ラーンのつぶやきを、イシェは無視した。「ここは静かすぎるわ」と彼女は言った。「いつも遺跡には何かしらの魔物が潜んでいるものなのに…」ラーンの不安が的中したのか、突然、地面が激しく揺れた。石柱が崩れ落ち、埃が舞った。「何だこれは!」ラーンは剣を抜き、周囲を見渡した。影の中から何かが飛び出して来た。巨大な虫のような怪物だった。
「やばいかも…」ラーンのつぶやきが、風でかき消された。