ラーンの大斧が岩盤を叩き割る音だけが、遺跡の静寂を破った。埃が舞い上がり、視界を一瞬遮った後、イシェは小さく溜息をついた。
「また無駄な effort だよ、ラーン。あの壁には何もないって何回言ったか分からないぞ」
イシェがそう言うと、ラーンは肩をすくめた。「いや、でもさ、もしかしたら奥に何かあるんじゃないか?ほら、この壁の模様、なんか不自然じゃないか?」
彼の指が壁の複雑な彫刻をなぞる。確かに、他の部分と比べて精巧で、まるで何かを隠しているかのようだった。イシェはため息をつきながら、ラーンの背後から壁を詳しく観察した。
「確かに、少しだけ違うかもしれないね...でも、この模様は単なる装飾品にしか見えない」
イシェがそう言うと、テルヘルが近づいてきた。「装飾品?面白い話だ。この遺跡の壁画には、古代のヴォルダン人が崇拝していた蛇神に関する記述があるらしい。もしこの模様が本当に何かを隠しているなら...」
テルヘルの目は鋭く光った。ラーンとイシェは互いに顔を合わせた。ヴォルダン人は、テルヘルにとって忌まわしい存在だった。彼女の復讐の対象である、かつて全てを奪っていった国の人々だ。
「もし蛇神に関連するものであれば...それは貴重な情報になるかもしれない」
テルヘルがそう言うと、ラーンの顔色が変わった。「おい、待てよ!俺たちがヴォルダン人の遺跡を漁るつもりか?そんな危険なことはやめようぜ!」
ラーンの言葉にイシェも頷いた。「確かに危険だ。ヴォルダン人は強力な魔法使いだったと伝えられている。その遺跡には罠が仕掛けられているかもしれない」
しかし、テルヘルは動じなかった。「危険を冒すことも必要だ。この情報があれば、ヴォルダンへの復讐に一歩近づくことができる」
彼女の言葉に、ラーンとイシェは顔を見合わせた。二人は互いに頷き合った。
「わかった。危険な場所になるかもしれないけど...俺たちは協力するよ」
ラーンの言葉が、遺跡の静寂を打ち破った。
テルヘルはしなやかに微笑んだ。「ありがとう。君たちには感謝している」