ラーンの豪快な笑い声がビレーの朝霧に溶け込んでいく。イシェはいつものように眉間に皺を寄せながら、彼を睨みつける。「また大穴だなんて言って、一体何を探してるんだ?あの遺跡なんて何度も調査済みでしょう。」
「そうかな?もしかしたら今回は違うぞ!ほら、テルヘルさんだって、珍しい遺物があるって噂を聞いて雇ったんだよ!」ラーンは剣を肩に担ぎ、目を輝かせた。
テルヘルは静かに頷き、「情報によれば、この遺跡にはかつてヴォルダン王家が使っていた秘宝が眠っているらしい。その力を利用すれば、我々の復讐も加速するだろう。」と淡々と語った。
イシェはテルヘルの言葉に少しだけ心を動かされた。彼女の凛とした姿と冷静な判断力にはいつも感銘を受けていた。だが、ラーンの無謀さに巻き込まれるのも避けられない。イシェはため息をつきながら、遺跡へと続く道を歩み始めた。
遺跡の入り口には、崩れかけた石柱がそびえ立っていた。かつて栄華を極めた文明の痕跡を感じさせるその姿に、イシェは少しだけ胸を高鳴らせた。
「よし!行こうぜ!」ラーンの元気な声が響き渡る。
テルヘルが先陣を切って遺跡の中へと入っていく。イシェはラーンと二人で後ろからついていく。遺跡内部は薄暗く、不気味な静けさに包まれていた。壁には不思議な模様が刻まれており、床には時を止めたかのような埃が積もっていた。
「ここからは気をつけろよ」テルヘルが振り返り、鋭い視線で周囲を見回した。「この遺跡はヴォルダン王家の魔術師たちが利用していたと言われている。罠が仕掛けられている可能性もある。」
イシェは緊張した面持ちで、剣を握りしめた。ラーンも珍しく無口になって、周囲の状況に気を配っているようだった。彼らはゆっくりと遺跡の中へと進んでいった。
やがて、彼らは広々とした部屋にたどり着いた。部屋の奥には、祭壇のようなものが置かれており、その上に何かが輝いていた。
「あれが…秘宝か?」ラーンは目を丸くした。
テルヘルはゆっくりと祭壇に近づき、その様子をじっと見つめた。「そうみたいだ。しかし、注意深く確認する必要がある。」
イシェも祭壇に近づくにつれて、その輝きに心を奪われた。それはまるで、静かな湖面に月が反射しているかのような、穏やかで優しい光だった。
だが、その穏やかな光は、彼らを欺いていた。
祭壇の真下に隠された罠が発動したのだ。
床から鋭い棘が飛び出し、ラーンを襲った。イシェは咄嗟にラーンの前に飛び出して、彼をかばった。棘はイシェの左腕に深く突き刺さった。
「イシェ!」ラーンは大声で叫んだ。
イシェは苦しみながらも、ラーンに微笑みかけた。「大丈夫…心配しないで…」
そして、その優しい笑顔と共に、イシェは意識を失ってしまった。