「よし、今回はあの崩れかけた塔だな」
ラーンがそう言うと、イシェは眉間にしわを寄せた。
「またあの塔？ あそこは危険だって聞いたよ。何か変なものが出るとか…」
「そんな噂話に惑わされるな」
ラーンは軽やかに笑って剣を肩越しに回した。「あの塔にはきっと何かあるはずだ。大穴が見つかる予感がするんだ！」
イシェはため息をつきながら、背負った袋の紐を締め直した。
「ラーンはいつもそう言う…」
その時、テルヘルが鋭い視線で二人を見据えた。「準備はいいか？ 今日は私が先導する」
「何だ、テルヘルさん。そんなに急いでいるのか？」ラーンの顔色が少し曇った。
「時間がない。あの塔にはヴォルダンが求めるものがあるかもしれない。私達はそれを手に入れなければならない」
テルヘルはそう言い終えると、先頭を歩き出した。二人は互いに視線を交わし、小さく頷き合った。
塔に近づくと、不気味な静けさに包まれていた。崩れた壁からは風だけが吹き抜け、かすかに何かがささやくような音が聞こえた。イシェは背筋が寒くなるのを感じた。
「ここ…何か変だ…」
ラーンの声も震えていた。「気をつけろ」とテルヘルが警告するように言った時、塔の奥から不気味な光が溢れ出した。その光はまるで生きているかのように脈打ち、周囲を照らし出すと同時に、三人の心を蝕むようなささやきを耳元で繰り返した。
「手に入れるのだ…手に入れるのだ…」
イシェは自分の足がすくむのを感じた。ラーンも剣を握りしめ、表情を曇らせた。テルヘルだけが冷静さを保ち、光に向かってゆっくりと歩みを進めた。
「何だあの光は…」
ラーンの問いかけに、テルヘルは答えることなく、光に向かって手を伸ばした。その瞬間、塔の奥底から轟音が響き渡り、地面が激しく揺れた。三人はバランスを崩し、よろめきながら立ち止まった。
「これは…！」
ラーンが叫ぶと同時に、光がさらに強くなり、三人の上に降り注いだ。イシェは目をぎゅっと閉じ、恐怖で体が震えた。ささやく声が大きくなり、頭の中で渦巻くように響いた。
「手に入れるのだ…手に入れるのだ…」