ビレーの朝はひんやりとしていた。ラーンの粗雑な寝息が、薄暗い小屋の中にこだました。イシェはすでに起きていて、小さな焚き火の前で煮立たせた水筒を温め直していた。ラーンはいつもより早く目を覚ますと、イシェが持ってきたパンを頬張った。「今日はテルヘルさんと遺跡調査に行くんだろ？準備はいいか？」イシェの視線は、ラーンのボロボロの剣 sheath に向けられた。「いつも言ってる通り、剣は磨いておくべきだ。あのささくれだって、いつの間にか手の中で崩れてしまうかもしれない」ラーンはイシェの言葉を無視して、残りのパンを口の中に詰め込んだ。「大丈夫だ、大丈夫！俺の剣さ、どんな魔物も切り伏せることができるんだ！」
テルヘルが小屋にやってきた時、ラーンの顔はすでに泥だらけだった。彼女は冷静な表情で二人を見下ろした。「準備はいいか？」ラーンは得意げに笑って「もちろんだ、テルヘルさん！今日の遺跡はきっと大穴だ！」と答えた。イシェはテルヘルの鋭い視線を感じながら、小さく頷いた。
遺跡の入り口には、石碑がそびえ立っていた。その表面には、奇妙な文字が刻まれていた。「これは…？」ラーンは石碑に手を伸ばそうとしたその時、イシェが彼を制止した。「待て！あの文字…見たことがあるような…」イシェは自分の記憶を必死にたどり直した。かつて図書館で見た古文書の断片を思い出すように。それは、ヴォルダンに関する記録だった。イシェは背筋に冷たいものが走った。「これは危険な場所だかもしれない。行くべきではない」
しかし、ラーンの目は輝いていた。「大穴が見つかるかもわからないんだ！俺たちは探検者だ！」と彼は石碑に触れようとした。イシェはため息をつきながら、テルヘルを見た。「どうする？」テルヘルは沈黙の後、ゆっくりと頷いた。「行く。だが、注意する」彼女の瞳には、どこか哀しい光が宿っていた。
遺跡内部は暗く、湿った空気が漂っていた。石畳の床には、ささくれだった岩が散らばり、足元を滑りやすくしていた。ラーンは興奮して先を急ぎ、イシェは彼の後をついて行った。テルヘルは後ろから二人を見守りながら、周囲を警戒した。
深い闇の中に、かすかな光が浮かび上がっていた。それは、遺跡の奥深くで、何かの光り輝きだった。ラーンとイシェは息を呑んで見つめた。そこには、巨大な祭壇があり、その上に奇妙な石像が置かれていた。石像は、まるで生きているかのように、二人を見つめていた。
「これは…！」ラーンの声は震えていた。イシェも言葉を失い、ただ石像に釘付けになっていた。その時、石像の目から赤い光が放たれ、二人は目を刺されるような痛みを感じた。
「やば…」イシェは意識を朦朧とさせながら、振り返った。ラーンが石像に向かって剣を振りかざしていた。
「テ、テルヘルさん！」イシェの声はかすれた。テルヘルはすでに石像の前に立っていた。彼女の剣が、赤い光に包まれていた。