ラーンが石を蹴飛ばした。埃が舞い上がり、一瞬太陽の光を遮った。ビレーの街はずれにあるこの遺跡はいつもよりひっそりとしていた。イシェは眉間に皺を寄せながら、小石を拾っては指でこすっていた。「何か変だな」と呟く彼女の言葉にラーンは軽く笑った。「何だ、また幽霊でも見えるのか？」イシェは「そんなわけないじゃないか」と反論するが、顔色は青ざめていた。
テルヘルは背筋を伸ばし、周囲を見回しながら静かに言った。「用心する必要がある。ここには何かいる」。彼女の目は鋭く、いつも以上に緊張していた。ラーンの心臓は高鳴り始めた。こまごました石ころが足下に転がり、かすかな音が響き渡るだけで、彼の神経をすり減らすように感じた。
「よし、俺たちが先頭だ」とラーンは剣を握りしめ、イシェに振り返った。彼女は小さく頷き、テルヘルに続く。狭い通路を進んでいくと、壁には奇妙な模様が刻まれていた。まるで警告のように、こまごました線や記号が複雑に絡み合っている。
「これは…」イシェは声を失い、指先で模様をなぞった。「見たことのない文字だ」。ラーンは気にせず、ただ前に進もうとした。しかし、その時、床から黒い煙が噴き出した。
「何だ！？」ラーンの叫びが響き渡る。煙は瞬く間に広がり、彼らの視界を遮り始めた。イシェは咳き込みながら、「ここは逃げられない！」と叫んだ。テルヘルは冷静さを保ち、小さな宝石を取り出して光を放った。
煙が少し薄れた時、彼らは目の前で巨大な影を見つけた。それは、まるで石でできた巨大な虫のようだった。こまごました足が地面を這いずり、不気味な音を立てながらゆっくりと近づいてくる。ラーンの顔色は真っ白になった。「逃げろ！」と彼は叫び、剣を振りかざした。
しかし、巨大な虫は彼らを飲み込むように襲いかかってきた。