「よし、今回はあの崩れかけた塔だな。イシェ、地図を確認しろ」
ラーンが拳を握りしめると、イシェは眉間に皺を寄せて地図を広げた。テルヘルは背後からそっと剣の柄に触れた。ビレーから少し離れた場所にある、朽ち果てた塔だ。噂では地下に広がる迷宮のような構造で、かつて強力な魔導師が住んでいたという。
「あの塔は危険だぞ、ラーン」
イシェの言葉は冷たい風のように響いた。「きっ、きりきり」と、かすかな音が塔の隙間から聞こえてくる。
「大丈夫だ、イシェ。僕に任せろ!」
ラーンの自信に満ちた声は、イシェにはいつも不安を与えた。彼は確かに強いが、その recklessness は時に彼らを危険な状況に陥れる。
テルヘルは鋭い目でラーンを睨んだ。「今回は慎重に進もう」と冷たく言った。
塔の入口は崩れ落ち、石ころが散らばっていた。ラーンの足音は重く響き渡り、イシェは緊張で息を呑んだ。
「何かいるぞ…」
イシェの声にラーンが振り返ると、彼の顔色が変わった。奥の方から、かすかに赤い光がちらつき、奇妙な音が聞こえてきた。「きりきり、きりきり」と。
「魔物か?」
テルヘルは剣を抜いて構えた。ラーンも剣を手に取り、イシェは後ろに隠れた。
赤い光が近づき、影の中から巨大な虫が現れた。鋭い牙と、不気味に輝く目がラーンたちをじっと見つめた。
「逃げろ!」
テルヘルの叫びが響き渡ったが、すでに遅かった。虫はラーンに向かって飛びかかった。
ラーンの剣が光り、虫の体を引き裂いた。しかし、その傷から大量の黒い液体が流れ出した。液体が地面に落ちると、煙と共に奇妙な音がした。「きりきり、きりきり」と。
「何だこれは!」
イシェは恐怖で震え上がった。ラーンは必死に戦ったが、虫は次々と出現し、彼らを追い詰めていく。
テルヘルは冷静さを保ち、魔法の書から呪文を読み上げた。炎が虫に襲いかかり、一時的に退けることに成功した。
「逃げろ!ビレーに戻れ!」
テルヘルの声は力強かった。ラーンとイシェは互いの手を握りしめ、塔から逃げるように走り出した。
しかし、後方から虫たちの「きりきり」という音が追いかけてくる。
彼らは生き残れるのか?