ラーンの重い息遣いが洞窟内にこだました。汗だくの顔から垂れ下がった髪が額にかかり、視界を妨げる。
「もう限界…。」
イシェは小さくため息をついた。「もう少しだ。あの壁を越えれば、調査目標の部屋にたどり着ける」
ラーンは苦笑いした。「そう簡単に言うな。あの壁、きついぞ。まるで鉄で出来てるみたいだ」
テルヘルは冷静に状況を分析する。「壁には魔石の粉末が練り込まれているようだ。通常の武器では歯が立たないだろう。イシェ、君の得意分野だな」
イシェは小さく頷き、腰から小さな袋を取り出した。中から白い粉末を手に取り、壁に慎重に塗り始めた。数分後、壁の一部が光り始め、徐々に溶け始めていく。
「よし、これで道が開けたぞ!」
ラーンが叫び、先頭を切って進む。だが、その瞬間、崩れかけた天井から石が落下してきた。ラーンは咄嗟に身をかわすが、イシェは避けきれなかった。
「イシェ!」
ラーンの悲鳴が響き渡る。石がイシェの右腕を直撃し、彼女は地面に倒れ込んだ。
「ぐっ…」
イシェは顔を歪め、痛みで意識が遠のいていくのがわかった。
テルヘルは冷静に状況を判断し、近くの岩から薬草を取り出した。「ラーン、すぐにイシェを運び出して。私は後を追う」
ラーンの顔は蒼白だった。「大丈夫か?イシェ!」
イシェはかすかに微笑んだ。「…大丈夫だ。きついけど…」
意識が朦朧とする中、イシェは自分の命の重さと、この遺跡探索の危険さを痛感した。