ビレーの酒場はいつも賑わっていたが、ラーンとイシェのテーブルはなぜか静かなものだった。二人は目の前の煮込み料理を箸が進まない様子で、テルヘルを見つめていた。
「あの遺跡の調査報告書、まだ届かないんですか?」
イシェの言葉に、テルヘルは薄暗い目を細めた。
「ヴォルダンからの情報提供は遅れているようだ。だが、気にしなくて良い。我々には時間がある」
「時間があるって…?」ラーンの眉間に皺が寄った。「次の依頼が来るまで待てってことか?俺たち、食うに困ってるんだぞ!」
テルヘルは微笑を浮かべたが、その目は冷たかった。「落ち着きなさい、ラーン。我々の目標は遺跡の調査だけではない。ヴォルダンとの戦いの火種となる情報、そして…おこぼれを手に入れるのだ」
イシェはテルヘルの言葉に背筋を凍らせた。彼女はいつもこうだった。目的のためには手段を選ばない。ラーンの無邪気な熱意を利用し、危険な賭けに手を染める。
「おこぼれ…?」ラーンが首を傾げると、イシェは彼の手を掴んだ。彼の熱い視線から目をそらしながら、小さく呟いた。
「ラーン、僕たちは本当に正しいことをやっているのか…」
その問いにラーンは答えられなかった。彼はただ、テルヘルの言葉に踊らされ続ける自分の姿が怖くなった気がした。