「よし、行くぞ!」
ラーンの豪快な声にイシェがため息をついた。目の前には、いつもより少し深く、少しだけ不気味に感じる穴が開いていた。
「また、そんな危険な場所へ?」
イシェの言葉は風になじんで消えた。ラーンはすでに剣を手に、穴の中に飛び込んでいった。
「待て!」
イシェが叫んでも、ラーンの姿は見えなくなった。テルヘルは静かに立ち尽くし、わずかな笑みを浮かべた。
「準備はいいか?」
彼女はイシェに言った。イシェはうなずく以外に何もできなかった。
穴の中は暗く湿っていた。足元には石が転がり、壁には苔が生えていた。ラーンの姿は薄暗がりの中でかすかに見えた。彼は興奮気味に何かを掘り起こしているようだった。
「何か見つかったのか?」
イシェが声をかけると、ラーンは顔を上げた。彼の顔は泥まみれで、目は輝いていた。
「これは!」
ラーンが手に持っていたのは、奇妙な金属の箱だった。表面には複雑な模様が刻まれており、触ると冷たさが伝わってきた。イシェは警戒しながら箱を覗き込んだ。中からは何も見えなかった。
その時、地面が激しく揺れ始めた。天井から石が崩れ落ち、ラーンとイシェは慌てて逃げ出した。後ろから轟音が響き渡り、穴は崩落した。
「何だったんだ…?」
イシェは震える手で地面を叩いた。ラーンの姿は見えない。テルヘルも顔色を変えていた。
「あの箱は…」
テルヘルの言葉は途絶えた。彼女が何かを知っているような気がしたが、イシェにはその真相は分からなかった。ただ、この出来事は、彼らの人生を変える一つのきっかけになったことは間違いなかった。