ビレーの夕暮れ時、茜色の空が街を染めていく。ラーンは酒場で豪快に笑いながら、イシェの眉間にしわを寄せている姿を見ていた。
「おいイシェ、もっと楽しめよ！今日は大穴が見つかる予感しかしないぜ！」
ラーンの言葉はいつも通り、勢いがあった。イシェはため息をつきながら酒を一口飲んだ。
「そんな楽観的なことばかり言わないで。今日の遺跡は特に危険だって聞いたわ。あの辺りはヴォルダンの兵士がうろついているって噂もあるし。」
ラーンはイシェの言葉を軽く聞き流した。彼の目は遠く、未来の栄光を夢見ていた。イシェはそんなラーンの様子を見て、胸に切ない痛みを感じた。ラーンの無邪気な笑顔の裏には、この街で暮らす人々の苦しみと、自分たちの貧しさがあることを、彼女は知っているからだ。
テルヘルは静かに酒を味わっていた。彼女の鋭い目は、店の隅々まで見渡していた。彼女はヴォルダンへの復讐に燃えており、ラーンたちとの契約もそのための手段の一つだった。しかし、彼らと過ごすうちに、彼女自身の心が少しづつ変化していくのを感じていた。
日が暮れ始めると、三人は遺跡へと向かった。道の脇には、かつて栄華を極めた文明の名残が、朽ち果てた石造りの壁や崩れかけた柱として、うつろいの中に佇んでいた。
遺跡の入り口に差し掛かった時、ラーンは剣を抜いた。イシェが緊張した表情で周囲を見回し、テルヘルは静かに手を構えた。彼らは互いに言葉もなく、危険を察知し合っていた。
遺跡の中は薄暗く、不気味な静けさが漂っていた。彼らは慎重に足を進め、崩れかけた石畳の上を歩いていった。
すると、突然、壁から何かが飛び出して来た。それは巨大な影が、彼らを襲いかかるように迫ってきた。ラーンは剣を振り上げて立ち向かった。イシェは素早く身をかわし、テルヘルは呪文を唱え始めた。
激しい戦いが始まった。ラーンの剣は鋭く光り、イシェの動きは素早かった。テルヘルの魔法は強力で、影を一時的に押し戻した。しかし、影は執念深く襲いかかってくる。
戦いの最中、イシェが影に傷つけられそうになった。ラーンは彼女を守るために身を投げ出した。その瞬間、イシェの心の中で、何かが大きく崩れ落ちたように感じた。
彼女はラーンの無償の愛に気づき、自分の夢だった安定した生活よりも、彼と共に生きていくことを決意した。
影を打ち破り、三人は遺跡から脱出した。夕暮れの空は、まるで彼らの未来を照らすように、希望に満ち溢れていた。