「またかよ、この熱帯の湿気!」ラーンが顔をしかめた。イシェは背中に汗を滲ませながら、「言いたいことはわかるけど、そんなこと言ってても仕方がないでしょう」と冷静に言った。
ビレーから離れた遺跡へ向かう道はいつも以上に酷暑で、ラーンの不機嫌な様子は一層ひどかった。テルヘルは「早く着かないと日が暮れるぞ」と促すものの、ラーンはなかなか歩を進めない。「おい、テルヘル!この暑さで遺物なんか見つけられるわけないだろう!」
テルヘルは眉をひそめた。「私はあなたの愚かさに付き合わされるのが嫌だ。遺物の価値を理解しているのか?あのヴォルダンに奪われたものは…」彼女は言葉を濁したが、ラーンとイシェはその瞳の奥底にある怒りと憎しみが感じ取れた。
イシェが「落ち着いてください。テルヘルさん。遺跡はあと少しです」と間に入った。ラーンの不機嫌さはイシェには常態化していたものだが、テルヘルの激しい感情は、いつも彼女を不安にさせていた。
遺跡の入り口にたどり着くと、ラーンは先を急いだ。「よし、行くぞ!」彼は剣を抜いて、熱気に歪んだ石畳の上を進み始めた。イシェは彼の後ろを静かに追いかけ、テルヘルは少し遅れて彼らの後を追った。
しかし、遺跡内部は予想以上に暗く、湿った冷気が漂っていた。ラーンが不機嫌になり始めるのも無理はないと思った。イシェは「何か変だ」と呟きながら、周囲を見回した。
突然、ラーンの足元から崩れ落ちた石が、深い闇へと落ちていく音が響いた。ラーンの顔色が変わった。「おい、イシェ、ここって…もしかして…」
イシェはラーンの言葉を遮った。「ラーン、気をつけろ!」彼女は剣を構えた。テルヘルも素早く剣を抜いてラーンの前に立った。
「何だ、この場所…」ラーンの声は震えていた。イシェは足元に目を落とすと、不吉な予感に襲われた。そこには、崩れ落ちた石の下から、赤い光がぼんやりと浮かび上がっていた。