ラーンが、埃まみれの石の扉をこじ開けた時、イシェは背筋がゾッとするような予感を覚えた。いつもならラーンの無鉄砲さに呆れていたはずだが、今回はなぜか彼の興奮に共感するような感覚だった。ビレー近郊で発見された遺跡は、他のものとは違っていた。石畳の床には、歪んだ幾何学模様が刻まれており、空気が重く、静まり返っていた。
「おい、イシェ!見てみろよ!」ラーンが叫びながら、奥へと進もうとした。「こんな遺跡、初めてだぞ!」
イシェはラーンの後ろをついていく。いつもなら、ラーンの無計画さに呆れながらも、彼の熱意に巻き込まれるようにしてついていくのだが、今回は違う。何か、この遺跡から発せられるもの、まるで警告のようなものがイシェの心を締め付けている気がした。
テルヘルは、いつものように冷静さを保っていた。「慎重に進もう。」と彼女は言った。「この遺跡には、何かがいるかもしれない。」
ラーンの興奮を冷ます言葉だったが、イシェはテルヘルの言葉に少し安心した。いつもなら、ラーンの行動に振り回されるイシェだが、今回はテルヘルの存在が落ち着きをもたらしてくれた。
「大丈夫だ、イシェ。怖いものなんかないぜ!」ラーンはそう言って、さらに奥へと進んでいく。だが、彼の足取りは、いつもよりも少し重かった。
遺跡の奥深くには、巨大な石棺があった。その上には、奇妙な紋章が刻まれており、まるで生きているかのように光を放っていた。ラーンは興奮気味に石棺に近づこうとしたが、イシェは彼を制止した。「待て、ラーン!」
イシェは、石棺から発せられる邪悪なエネルギーを感じ取っていた。それは、単なる遺跡の遺物ではなく、何か恐ろしいものを宿しているような気がした。
その時だった。石棺から、黒煙が立ち上り、不気味な声が響き渡った。「…汝らは、誰だ…?。」
ラーンは驚愕し、イシェは恐怖で体が硬直した。テルヘルは、冷静さを装いながらも、剣を握り締めていた。
「これは、大穴ではない…」イシェは呟いた。
そこに、彼らの前に立ちはだかったのは、漆黒の鎧を纏った、巨大な影だった。その目は、血のような赤色で、邪悪な光を放っていた。そして、その口からは、歪んだ言葉が紡ぎ出された。
「…汝らは、この場所に踏み込んで来た罰を受けよ…」