「よし、今回はあの崩れた塔だ！」ラーンが目を輝かせ、地図を広げた。イシェは眉間にしわを寄せた。「また危険な場所を選んだじゃないの。あの塔は、以前調査した者たちが全員戻らなかったって噂があるわ。」
「そんなの迷信だろ。大穴があるかもしれないんだから、怖がる必要ないよ！」ラーンは豪快に笑った。イシェはため息をつきながら、準備を整え始めた。「あなたが言うなら…」
テルヘルは冷静に二人を見つめていた。彼女の目的は遺跡調査ではなく、ヴォルダンへの復讐だった。ラーンとイシェを利用するのはあくまで手段の一つだ。彼らの無邪気な姿を見るたびに、胸に冷たい火が燃えた。
ビレーを出発した三人は、険しい山道を進んだ。崩れた塔は、かつて壮大な建造物であったであろう痕跡を残していた。しかし、今は風化と崩壊の危機に瀕し、不気味な静寂に包まれていた。
「ここが入り口か…」ラーンが石化した扉の前に立ち止まった。イシェは慎重に周囲を調べながら、「何か罠があるかもしれないわ」と警告した。
テルヘルは、二人よりも早く塔の中へと入っていった。「無駄な時間を過ごしている場合じゃない。」彼女の冷たい視線は、塔の奥深くを見据えていた。
塔内は暗く、埃っぽかった。崩れた石や朽ち果てた家具が散乱し、不気味な影が壁に揺らめいていた。ラーンとイシェは緊張した面持ちで、一歩一歩慎重に進んだ。
「ここは…何か変だ」イシェは声を震わせた。
突然、床が崩れ、ラーンが深い穴に落ちてしまった。
「ラーン！」イシェが悲鳴を上げた。
テルヘルは冷静に状況を見極めた。「安全確認をしてから助けろ。」
イシェは慌ててラーンの元に駆け寄ると、彼は怪我をしているようには見えなかった。しかし、顔色が悪く、苦しそうに息を切らしていた。
「大丈夫か？」イシェが心配そうに問いかけた。
ラーンは苦笑いしながら、「大丈夫だ…ただ少し驚いただけだ」と答えた。しかし、彼の視線がどこか虚ろに見え、イシェは不安を感じた。
テルヘルは、ラーンの様子をじっと観察していた。彼の表情に隠された何かを感じ取ったのだ。
「何かあったのか？」テルヘルが冷たく尋ねた。
ラーンは一瞬ためらった後、ゆっくりと口を開いた。「あの穴…何かがあったんだ…」
彼は、穴の底で見たもの、感じたものを言葉にしようとした。しかし、うまく説明できない。それはまるで、言葉では表現できない何かだった。