「おい、イシェ、ちょっと待ってくれよ！」ラーンの声がビレーの狭い路地裏にこだました。イシェは振り返り、眉をひそめた。「また何だ、ラーン？遺跡に入る準備はいいって言ってたじゃないか。」ラーンは肩をすくめ、「そうだな、でもな…」と首を掻きながら言った。「あのテルヘルってやつ、なんか怪しいと思わないか？」イシェはため息をついた。「またそんなこと？何度言ったらわかるんだい？あの人の目的はヴォルダンへの復讐だって。遺跡探しが手段に過ぎないってのはもうわかってるだろう。」「わかってるって、でもな…」ラーンはもごもごと言葉を濁した。「あの目つき…なんか腹が立つんだよな。俺たちを道具だと思ってるんじゃないかと…」
イシェは彼を見下ろすように言った。「そんなことより、今日の遺跡について話をしようよ。地図によると、今回は結構奥深くまで潜らなきゃいけないみたいだし…」ラーンの視線はイシェの顔からそれて、路地裏の奥にある薄暗い tavern を見つめた。「あそこで一杯やるか？テルヘルの話なんて忘れちゃおうぜ。」イシェはため息をついた。「またか…わかったわ。でも、飲みすぎないでね。」
tavern の扉を開けた瞬間、ラーンは立ち止まった。店内には見慣れない男たちが集まっており、活気に満ちていた。賑やかな笑い声や、酒器がぶつかり合う音、そしてどこかで聞こえてくる不穏な囁き…「おい、イシェ、なんか変だな…」ラーンの顔色が変わった。「ここって、いつもこんな雰囲気だったっけ？」イシェも少し不安を感じた。「確かに…」と呟いたその時、背後から低い声が響いた。「準備はいいか？」振り返ると、テルヘルが立っていた。彼女の目にはいつもの冷酷な光が宿っていた。「さあ、行こう。」と彼女は言った。ラーンはイシェに目配せをするが、イシェはただ頷くだけだった。
tavern からの出口を出ると、夜空は星で輝いていた。ビレーの街灯が遠くに見え、遺跡へと続く道は漆黒の闇に沈んでいた。ラーンはテルヘルを後ろから見つめながら歩いた。彼女の背中は小さく見えた。「おい、イシェ…」ラーンの声が小さく漏れる。「あの男たち…一体何者だったんだろうな？」イシェは何も言わず、ただ深く頷いた。彼らの足取りは遺跡へと続く闇の中に消えていった。