「おい、イシェ、今日はいい感じの場所が見つかったぞ!」ラーンが興奮気味に叫びながら、崩れた石畳の上を駆け上がった。イシェはため息交じりに彼の後を追った。ラーンの目は輝いていた。いつもと変わらない光景だったが、イシェはどこか切ない気持ちになった。ラーンにとって遺跡探索は、いつか大穴を見つけて富を得て、あこがれの楽園のような生活を送ることへの希望だった。
しかし、イシェ自身はそんな夢を抱けなくなっていた。ラーンの無謀さに何度も巻き込まれ、傷を負い、失うものもあった。それでも、彼を止められない。彼の情熱に引っ張られるように、そしてどこかで、彼と一緒にいたいという気持ちがあったからだ。
「ここだ!」ラーンが石化した扉の前に立ち止まり、力強く押し込んだ。扉は重い音を立てて開いた。薄暗い通路が広がる。「よし、行こうぞ!」ラーンの声が響き渡る。イシェは小さく頷き、彼の後を続けた。
すると、通路の奥から、冷たい風が吹き抜け、奇妙な光がちらつき始めた。イシェは背筋が寒くなるのを感じた。何か邪悪なものを感じ取ることができたのだ。ラーンは気づいていなかったようだ。彼は目を輝かせ、光る石ころを拾い上げた。「これはいいものだ!きっと高値で売れるぞ!」
イシェはラーンの無邪気さに呆れながらも、同時に彼の純粋さにあこがれた。あの頃の自分にも、そんな風に夢を見ることができただろうか。
その時、通路の壁から影が伸び始めた。巨大な影がゆっくりと動き出し、ラーンを包み込んだ。「ラーン!」イシェの声が響き渡るが、影は聞き入れない。ラーンの顔は恐怖に歪んでいく。イシェは剣を抜いた。あの頃の自分なら逃げ出しただろう。だが、今は違う。
「ラーンを守らなければ…」イシェはそう決意し、影に向かって走り出した。